漢方の「不眠症」の考え方
陰陽の気が生み出す眠りのリズム
人間は夜は静かに眠り、朝になると起きるという体内の自然のリズムがあります。 漢方では陰と陽の「気」が交代することによって、このリズムが生み出されると考えます。 漢方医学の原典とされる「霊枢」には、『人は日中は陽の気に支配される、夜になると、この陽の気は体の奥深くに取り込まれ、それまで体内にあった陰の気が出て来て人を支配する。その時人は眠りに入る。陰の気が尽き、陽の気が再び体内から出てくる。その時人は目を覚ます。』
陰と陽の交代がうまく行われていれば、睡眠と覚醒は一定のリズムで訪れます。 この陰陽の気の交代がうまく行われなくなったときに不眠症になると考えているのです。
夜になってもなかなか眠れないのは陰陽の気の交代がうまく行われず、陰は気が体内の奥深くにとり込まれていかないためと考えられています。 夜中に目覚めたり、朝早く起きてしまったりするのは、陰の気が尽き、陽の気が出てくるのが早すぎるためです。
不眠症の人に見られる陰陽の気のアンバランスには陰の気が不足している場合と陽の気が多すぎる場合があります。 そのアンバランスを正すための薬を用いる治療がおこなわれます。
漢方では、肺と腎の関係をとらえます
漢方には「五臓六腑」の概念があります。 人間の体は、5つの臓に6つの腑で機能するという考え方です。 不眠症は、肝と腎との関係が深いとされています。 「肝っ玉」という言葉があることからも分かるように、肝は人間の感情や精神と深く結び付いています。 「癇(肝)が高ぶる」という言葉がありますが、このような時はなかなか眠りにつけませんし、眠ったとしても、眠りが浅く、すぐに目が覚めしまいます。
肝の機能に失調があると頭の方に気がのぼり、このため眠れなくなってしまいます。 肝は血とも関係が深く、肝の機能が失調すると血に影響が現れて、イライラするようになります。 肝と腎に原因があると考えられる不眠症には、肝、腎に働きかけ、全身のバランスを整える漢方薬が使われます。
不眠症を解消させる漢方薬
不眠症に用いられる漢方薬は、睡眠薬や、精神安定剤のように、睡眠に誘導するための薬ではありません。 不眠の原因となっている体内のバランスを解消し、調えていきます。 そのため、自然な眠りがもたらされ、頭痛や不安、イライラなど不眠症に伴う、さまざまな症状も解消します。